2013-06-16(Sun)

主を信頼して 2013年6月16日の礼拝メッセージ

主を信頼して
中山弘隆牧師

 家臣の一人が答えた。「だれも通じていません。わが主君、王よ、イスラエルには預言者エリシャがいて、あなたが寝室で話す言葉までイスラエルの王に知らせているのです。」アラムの王は言った。「行って、彼がどこにいるのか、見て来るのだ。わたしは彼を捕らえに人を送る。」こうして王に、「彼はドタンにいる」という知らせがもたらされた。王は、軍馬、戦車、それに大軍をそこに差し向けた。彼らは夜中に到着し、その町を包囲した。神の人の召し使いが朝早く起きて外に出てみると、軍馬や戦車を持った軍隊が町を包囲していた。従者は言った。「ああ、御主人よ、どうすればいいのですか。」するとエリシャは、「恐れてはならない。わたしたちと共にいる者の方が、彼らと共にいる者より多い」と言って、主に祈り、「主よ、彼の目を開いて見えるようにしてください」と願った。主が従者の目を開かれたので、彼は火の馬と戦車がエリシャを囲んで山に満ちているのを見た。
列王記下6章12~17節


 人々は長い間、食事をとっていなかった。そのとき、パウロは彼らの中に立って言った。「皆さん、わたしの言ったとおりに、クレタ島から船出していなければ、こんな危険や損失を避けられたにちがいありません。しかし今、あなたがたに勧めます。元気を出しなさい。船は失うが、皆さんのうちだれ一人として命を失う者はないのです。わたしが仕え、礼拝している神からの天使が昨夜わたしのそばに立って、こう言われました。『パウロ、恐れるな。あなたは皇帝の前に出頭しなければならない。神は、一緒に航海しているすべての者を、あなたに任せてくださったのだ。』ですから、皆さん、元気を出しなさい。わたしは神を信じています。わたしに告げられたことは、そのとおりになります。わたしたちは、必ずどこかの島に打ち上げられるはずです。」
使徒言行録27章21~26節


(1)ローマへの道
 使徒言行録はキリストの復活の証人として立てられた使徒たちがキリストの福音を宣教した行為の記録であります。復活のキリストが聖霊を通して、彼らの中に働かれたことによる福音宣教でありますので、使徒言行録は聖霊の働きを記録したものとも言えます。
 東方でキリスト教に接したクリスチャンの中に商売やそのたの事情で、ローマに移住した人たちがいました。彼らはそこで自分たちの礼拝を守り、既にキリスト教会がローマに存在していました。しかしながら使徒言行録は使徒たちがローマに到達したことによって、キリストの福音が正式に全世界に向かって語られたと見ております。
 本日の聖書の箇所は、キリストの使徒パウロによって、福音が正にローマにもたらされようとしている最後の場面を伝えています。
 「わたしたちがイタリアへ向かって船出することに決まったとき、パウロと他の数名の囚人は、皇帝直属の百人隊長ユリウスという者に引き渡された。」(27:1)
 このようにしてパウロは福音のために鎖につながれて、ローマ皇帝の前に立つことになりました。まことに不思議な神の導きです。以前からパウロは福音を世界に広めるために、ローマの教会が宣教の拠点となる必要性を認識していましたので、彼はコリント教会からローマの信徒に宛てた手紙を送っています。その手紙の中で、パウロは次のように言っています。
 「何とかしていつかは神の御心によってあなたがたのところへ行ける機会があるように、願っています。」(ローマ1:10)
 ところが彼の祈りが答えられ、今このような形で実現しようとしているのです。ことの発端は、エルサレム神殿にいるパウロを見たユダヤ人たちが騒ぎ出し、エルサレムが大混乱に陥り、彼はローマの守備隊によって助け出されたことです。ところがユダヤ人たちはエルサレムを混乱に陥れた張本人としてパウロをローマ総督に訴えました。そのとき彼らは高額の賄賂を贈りましたが、パウロは何も贈りませんでしたので、総督はパウロが無実であることを知りながら、裁判を引き延ばしていました。一年以上過ぎてついにパウロは皇帝に上訴しました。それはパウロがユダヤ人でありましても、ローマ市民権を持っていたため皇帝に上訴できたからです。そのようにしてパウロはローマに行くことが決まりました。

 さらに当時のローマ皇帝は悪名高きネロ皇帝でした。彼の前にパウロが囚人として立ちましたのは、まことに記念すべき劇的出会いでした。この世の権力と栄華の象徴であり、また悪の象徴であるネロ皇帝は、福音のために鎖につながれたパウロを見て、軽蔑と同時に恐れを感じたことでありましょう。
愛と善意のために謙遜と苦難の中にあるパウロがキリストの救いの力をもってネロ皇帝の前に現れたのです。それから二百五十年間も続いた迫害の時代を経て、キリストの贖いの力が遂にローマの力に勝利し、ローマ世界はキリスト教化されるに至りました。
 それに致しましても、福音がローマに到着した道は、この世の権力者によって鎖につながれた囚人が辿らなければならなかった道です。それは神様が定められた「十字架の道」でありました。

(2)嵐の航海
 次に聖書はパウロのローマへの道がまた嵐の航海であったことを伝えています。
 「幾日もの間、船足ははかどらず、ようやくクニドス港に近づいた。ところが、風に行く手を阻まれたので、サルモネ岬を回ってクレタ島の影を航海し、ようやく島の岸に沿って進み、ラサヤの町に近い『良い港』と呼ばれる所に着いた。」(27:7~8)
 ここで、パウロの一行が逆風に出会って、航海したという出来事は、パウロの福音宣教の生涯に対する一つの比喩として見ることができます。彼は多くの点で、恵まれた立場にありました。生まれながらにしてローマの市民権を持っており、輝かしい精神と鋭敏な魂が備わっていました。しかしこれらの有利な点だけでなく、彼の一生は福音のため幾多の逆風にさらされたのです。
 彼は復活の主イエスに出会い、それまで熱心なユダヤ教徒でありましても、一度も生ける神との人格的交わりを体験したことのなかった彼が、神と対面し、神の霊的生命に生かされ、神に仕える者とされたのです。それは万人の救いのために、神が実現してくださった主イエスの恵みによるものでありました。そのことを信じたパウロを神は福音の使徒として立てられました。
 実にキリストの福音のために、彼はキリストに反対する同胞のユダヤ人から激しい迫害を受けました。また異教徒やローマ政府の無理解による不法行為を耐え忍ばなければなりませんでした。
 また福音を宣教するため、三回にわたる世界伝道を果たしましたが、古代世界の旅行は非常に大きな犠牲を要求したのです。

 しかし、程度の差はありましても、同様の事が誰にでも当てはまります。順風の期間は、すべての点で事がうまく運ばれます。しかし、遅かれ、早かれ、困難な時期が必ず来ます。だれでも健康でありたいと願いますが、そういうわけにはいきません。だれでも経済的安定を望みますが、不景気の時、失業して生活がひっ迫することがあります。すべての人は平和な世界を願っていますが、その幸いを享受できるとは保証されていません。経済成長の裏では、貧富の格差が拡大し、庶民の暮らしは改善されることはありません。このように人生の中にしばしば逆風が吹きます。
 ところで、逆風もパウロとその一行がローマに到着するのを阻むことはできませんでした。
 航海者は逆風を利用して航海する術を心得ているように、人は人生の不運から益を得ることを学ぶのです。この点パウロは良い見本です。
 彼は自分の持っている弱さを嘆かず、その中で神を賛美しました。彼は肉体に刺さっている棘を持っていて、それを取り去っていただくように神に祈りましたが、主は次にように仰せになりました。
 「わたしの恵みはあなたに十分である。力は弱さの中でこそ十分に発揮されるのだ。」(コリント二、12:9)
 それ以来、彼は自分の弱さを受け入れました。それによって、自分を舞台の主役にしたいという野心から解放され、自分を越えて、無私な立場に立って行動することを学びました。人間にとって大切なことは、何が起こるかではなく、むしろそのときどのように対処するかであります。
 彼はキリストの恵みにより、自分を越えたキリストの思いをもって、人生の種々の境遇に対処できた人であります。このことを彼は「キリストにあって生きる」と言う言葉で表現しています。
 「生きているのは最早わたしではありません。キリストがわたしの内に生きておられるのです。」(ガラテヤ2:20)
 人はキリストにあって、自己の栄枯盛衰を越えることができるという事実が、人を真に自由にし、そして人間的にします。
 自分の歩んできた人生を振り返って、もしもう一度生まれ変わってきたとしても、自分は同じ人生を歩むだろうと、言い切れる人は少数でありますが、時々そのような人と出会うことがあります。
 そのような人は自分の人生の運命を愛する人だ、と言われますが、しかし本当の意味でそう言えるのは、キリストにあって歩む人です。

 なぜならばキリストは十字架の犠牲の死において、ご自身をわたしたちに与え、わたしたちが神の恵みの中で生きるために復活し、聖霊を通して、わたしたちの中に働き、わたしたちを導いておられるからです。キリストに従う人生は二度と繰り返すことのない一回限りの人生でありますが、それゆえ永遠の意味を持っています。
 それゆえキリストに従って、神が定められた自分の人生を歩むこと自体が、神の子とされたクリスチャンの人生なのです。神様があなたの人生はそこまでですと仰せになれば、クリスチャンは感謝してそれを受け入れるのです。ここまで、キリストへの信頼と依存を徹底させることが、キリストにおいて与えられる永遠の命に生きることです。またその終着点が永遠の神の国であることを信じることなのです。
 ここにクリスチャンが自己の思いを越え、自分の運命を愛している根拠があります。

(3)キリスト者の自由
 この章の後半には、逆風を支配したパウロの秘密を知る手掛かりが記されています。
 第一は、パウロは嵐と逆風の危険を避けるために可能なあらゆる手段を講じています。
 三回の世界伝道旅行を経験した彼は晩秋の航海の危険性を熟知していました。それゆえ、航海を来年の春まで延期するように提案したのです。
「皆さん。わたしの見るところでは、この航海は積み荷や船体ばかりではなく、わたしたち自身にも危険と多大な損失をもたらすことになります。」(27:10)
このように警告をしました。従いまして、逆風に抗して航海すると言いうことは、決して無謀な冒険を試みることではなく、知恵を働かせて、逆風の条件を少しでも改善するために最大の努力をすることが必要です。
 しかしそれでもなお事態が悪化し、逆風を受けるようになることがあります。ここではパウロの提案が聞き入れられませんでした。それは百人隊長がパウロの意見よりも、船長や船主の意見を信用したからです。
 その時、「南風が静かに吹いてきたので、人々は望み通りに事が運ぶと考えて錨を上げ、クレタ島の岸に沿って進んだ。しかし、間もなく、『エウラキロン』と呼ばれる暴風が、島の方から吹き下ろしてきた。船はそれに巻き込まれ、風に逆らって進むことができなかったので、わたしたちは流されるにまかせた。」(27:13~15)
 さらに、18節から20節にはこのように記されています。
「しかし、ひどい暴風に悩まされたので、翌日には人々は積み荷を海に捨て始め、三日目には自分たちの手で船具までも捨ててしまった。幾日もの間、太陽も星も見えず、暴風が激しく吹きすさぶので、ついに助かる望みは全く消え失せようとしていた。」(27:18~20)

 第二に、このような絶体絶命の窮地の中で、パウロは自己を越えたキリストの精神の持ち主であることの特性を示したのです。それは敗北と死の中でも混乱することを拒むのです。
 それゆえ、パウロは船の中で立ち上がりました。兵隊や水夫や乗船者や船主に取り囲まれたパウロの光景は、何と頼もしい者として全員の目に映ったことでしょうか。
「しかし今、あなたがたに勧めます。元気を出しなさい。船は失うが、皆さんのうちだれ一人として命を失う者はないのです。」(27:22)
 パウロと共に船に乗っていた人々は既に絶望していたのです。そのような人々に向かて、「元気を出しなさい」と言うことは、あたかも首に縄をかけられている死刑囚に、喜びなさいと言うのと同じで、全く不可能なことです。
 しかし、これがパウロの言った内容です。事態が崩壊する瀬戸際で、「静かにして落ち着いている」ことができるのです。その理由は、自己を越えたキリストの思いに立っているからです。その時すでに破局から救い出す神の力を受けているのです。

 第三に、このような神の力を受けて、パウロはまた非常に現実的な手段を取りました。すなわち、皆に食事をとることを勧めました。
 そうすることがこれからの事態の推移の中で、自分たちの命を救う唯一の方法であることを教え、彼自身がパンを取り出し、神に感謝して食べ始めたのです。それにならって皆が食事をしました。
 この嵐の中で、神に感謝して食事することが、自己を越えた者が取った行動です。
 結局、船は小さな島の浅瀬に乗り上げ、船首は激浪によって破壊されました。それでも泳げるものは自分で岸まで泳ぎ、泳げない者は破壊した船の板に載せられて岸まで無事運ばれたのです。

 パウロがこのように、自己を越えて、キリストの思いによって、考え行動したことが、実際ローマに到着することを可能にしました。
 実にこの確信の根拠は神の言葉です。
「パウロ、恐れるな。あなたは皇帝の前に出頭しなければならい。神は、一緒にいるすべてのものを、あなたに任せてくださったのだ。」(27:24)
 パウロはこの神の意志を知り、信じ、それに寄り頼んで行動しました。それによって破局から救出されたのです。



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