2016-11-27(Sun)

受胎の知らせ 2016年11月27日の礼拝メッセージ

受胎の知らせ
中山弘隆牧師

 ひとりのみどりごがわたしたちのために生まれた。ひとりの男の子がわたしたちに与えられた。権威が彼の肩にある。その名は、「驚くべき指導者、力ある神/永遠の父、平和の君」と唱えられる。ダビデの王座とその王国に権威は増し/平和は絶えることがない。王国は正義と恵みの業によって/今もそしてとこしえに、立てられ支えられる。万軍の主の熱意がこれを成し遂げる。
イザヤ書9章5~6節
 

 ダビデ家のヨセフという人のいいなずけであるおとめのところに遣わされたのである。そのおとめの名はマリアといった。天使は、彼女のところに来て言った。「おめでとう、恵まれた方。主があなたと共におられる。」マリアはこの言葉に戸惑い、いったいこの挨拶は何のことかと考え込んだ。すると、天使は言った。「マリア、恐れることはない。あなたは神から恵みをいただいた。あなたは身ごもって男の子を産むが、その子をイエスと名付けなさい。その子は偉大な人になり、いと高き方の子と言われる。神である主は、彼に父ダビデの王座をくださる。彼は永遠にヤコブの家を治め、その支配は終わることがない。」マリアは天使に言った。「どうして、そのようなことがありえましょうか。わたしは男の人を知りませんのに。」天使は答えた。「聖霊があなたに降り、いと高き方の力があなたを包む。だから、生まれる子は聖なる者、神の子と呼ばれる。あなたの親類のエリサベトも、年をとっているが、男の子を身ごもっている。不妊の女と言われていたのに、もう六か月になっている。神にできないことは何一つない。」マリアは言った。「わたしは主のはしためです。お言葉どおり、この身に成りますように。」そこで、天使は去って行った。そのころ、マリアは出かけて、急いで山里に向かい、ユダの町に行った。
ルカによる福音書1章26~38節


(1)アドベント
 教会歴に従って、本日から主のご降誕の日を迎える準備の期間、すなわちアドベントに入ります。アドベントは、「アドベントゥス」というラテン語から由来した英語で、「到来」と言う意味です。そういう意味ではクリスマスも主の到来ですが、教会用語としてのアドベントは救い主の到来を迎える心の準備を整える期間として使用されています。
 まことに「主、共にいます」という「インマヌエル」のクリスマスの恵みを、今日わたしたちが体験するためには、クリスマスをまず神の救いの歴史の視点から見て、人類の救いに対する神の約束がどのような経過をたどって来たかについて、聖書から聞くことが必要です。神の約束の実現は真に長い歴史の経過を必要としました。
 神様は人間をご自身との交わりの中に招き入れるという永遠の目的を実現するために、人類の歴史の中で働いてこられました。
 この目的のため最初に選ばれた人がアブラハムです。神はアブラハムと出会い、御言葉をもって救い主の到来を約束されました。それは創世記12:1~3に記されています。
 「アブラハムは祝福の源となり、地上の氏族はアブラハムによって神の祝福を受ける。」
 この御言葉は、アブラハムが自分に現れた神を信じ、神に従う生活を続けるとき、アブラハムを通して神の祝福が諸民族に及ぶという約束でした。しかし、どれほど信仰の熱心な人であっても、自分が聞いた御言葉の深い意味を最初から十分理解することはできません。生涯を通して御言葉に寄り頼みながら真剣に生きているならば、自分を取り巻く歴史の状況が変化していく中で、徐々に神の目的が鮮明になって来るのです。
 アブラハムは信仰の生涯における一つの峠を越えたとき、神様は約束を一層鮮明にされました。それは創世記22:18に記されている神の御言葉です。「地上の諸国民はすべて、あなたの子孫によって、祝福を受ける。」このように神様の祝福の本当の担い手は、アブラハム自身ではなく、彼からでる一人の子孫であることが明らかになりました。
 実に、歴史を貫いて働く神様の約束は、一人の信仰者の生涯だけでなく、さらにイスラエル民族を取り巻く世界の歴史の経過が必要だったのです。その歴史を年代の面から、大局的に考察しますと次にように説明できます。
 旧約聖書学者のテオドール・ロビンソンによると、アブラハムに神の約束が与えられた年代は西暦前1800年頃です。イスラエル民族はヤコブの時代にエジプトに移住し、エジプトで貧民階級の苦しみを体験し、西暦前1500年頃に、モーセの指導の下で、エジプトから脱出し、シナイ半島で神の律法を授与されました。シナイ半島の放浪の期間は苦難の連続でしたが、イスラエルの民は律法に従った生活をすることによって、荒れ野の生活に耐えることができたのです。
 その後、西暦前1350年頃にパレスチナに侵入し、そこに定着し、西暦前1300年頃から1030年頃まで、カリスマ的な指導者が近隣諸国の攻撃からイスラエル社会を守りました。例えば、ギデオンまたサムソンなどです。この時代が300年位続きました。
 その後、時代の必要性に迫られてイスラエル社会も他の民族と同様に王を擁立し、ソウルが預言者サムエルによって、油を注がれ、最初の王朝を設立しましたが、ソウルは隣接する国との戦いで戦死し、ダビデがイスラエル民族の王となり、ダビデ王朝が建設されました。この時代が西暦前1030年~936年頃です。
 この時代に、預言者サムエルとナタンが活躍しました。しかし、西暦前936年頃にはダビデ王朝はソロモン王の死後、二つに分裂し、北イスラエル王国とユダ王国になりました。この時代に預言者エリヤが活躍し、さらに預言者アモス、ホセアが活躍しました。
 その後、西暦721年頃に北イスラエル国はアッシリア帝国に滅ぼされました。また、ユダ王国はアッシリアの攻撃に晒されその属国としてかろうじて存続しました。この時代に預言者イザヤ、ミカ、エレミヤが活躍しました。
 その後、西暦586年にユダ王国がバビロニヤ帝国によって滅び、ユダ王国の有力な者は、首都バビロンに捕囚の身となりました。それ以後ユダヤ民族は国家を持つことは不可能となりました。
 その後、世界の覇権を掌握したのがペルシャ帝国です。ペルシャ帝国は、寛容政策を取り、捕囚のユダヤ人をエルサレムに帰還させたのが西暦538年です。従って、ユダヤ人は48年間の捕囚後に祖国に帰還しました。この時代に活躍した預言者は第二イザヤと呼ばれる無名の預言者と、エゼキエルです。また、帰還したユダヤ人に対して、神殿再建を励ました預言者たちもいます。ハガイ、ゼカリヤなどです。そして、イスラエル社会における最後の預言者となったのが、マラキです。彼は西暦前450年ごろに活躍しました。
 マラキ以後はイスラエルに預言者は出現しませんでした。但し、新約聖書の時代に主イエスに洗礼を授け、主イエスが救い主であると直接証言した洗礼者ヨハネは特別であり、新約聖書によれば彼が旧約聖書の最後の預言者です。
 このように最初にアブラハムに与えられた神の約束は、約束の内容が次第に明確になり、最後に実現するには実に約1800年に及ぶ歴史の展開が必要でありました。この長い時代を通して、神はイスラエルの歴史と人類の歴史を支配し、導き、神の意志に反するときには裁きを実行し、悪い社会と悪い行いを滅ぼし、同時に人類が新しい歩みを開始するための救済を与え、歴史を前進させて来られたのです。その間に世界の覇権は、ペルシャ帝国、ギリシャ帝国、そしてローマ帝国に移りました。

(2)時が満ちる
 実に神の御言葉は人類の歴史を貫いて、目的実現に向かって展開して行きます。この性格をもっているのが神の「御言葉」です。それゆえ、御言葉の実現には歴史の中で「時が満ちる」ことが必要です。ガラテヤの信徒への手紙4章4節で、パウロは次のように言っています。
 「しかし、時が満ちると、神は、その御子を女から、しかも律法の下に生まれた者としてお遣わしになりました」。ここで、パウロは「時」が満ちたと、言っているのは、アブラハムの時代から約1800年を経過した時です。
 さらに主イエスは神の言葉が持っている意義と力を説明して、マルコによる福音書13章31節で、次のように仰せになっています。
 「天地は滅びるが、わたしの言葉は決して滅びない。」
 このことを考えますと、わたしたちは神の御言葉を聞いて、クリスチャンとして何年かの人生を送る訳ですが、決して自分一個の人生だけで終わるのではありません。そうではなく、時代を貫いて前進して行く神の民の歴史に参加するのです。この意味は非常に大きいです。
 人類の歴史を貫いて、目的を実現される神の救いの歴史の中にわたしたちが招き入れられ参加するのです。何という素晴らしい恵みでしょうか。ここにクリスチャンの尽きない喜びと将来の展望があります。

(3)恵まれた人
 今や救いの歴史の「時」が満ちて、神の約束が実現するために、処女マリアのところに天使が現れ、神の御子の受胎を知らせました。
 「ダビデ家のヨセフという人のいいなづけであるおとめのところに遣わされたのである。そのおとめの名はマリアといった。天使は、彼女のところに来ていった。『おめでとう、恵まれた方。主があなたと共におられる。』(1:27~28)
 ここで、聖書は天使ガブリエルが神からマリアのもとに遣わされた、と言っています。ガブリエルは旧約聖書では、神の面前で仕えている天使である、と考えられていました。
 ガブリエルがマリアに現れ、神の御言葉を語りましたのは、目に見えない神の言葉と行為をビジョンによって鮮明にするためでした。それは神様が生ける人格として、マリアに出会い、直接御言葉を語っておられる霊的現実を見える形で示しています。
 旧約聖書の中では、天使がしばしば神様と区別しがたい形で、神の言葉を告げています。天使はマリアに恵まれた人として挨拶しました。この挨拶に戸惑うマリアに、一層詳しいメッセージが語られました。
 「マリア、恐れることはない。あなたは神から恵みを頂いた。あなたは身ごもって男の子を生むが、その子をイエスと名付けなさい。その子は偉大な人となり、いと高き方の子と言われる。神である主は、彼に父ダビデの王座をくださる。彼は永遠にヤコブの家を治め、その支配は終わることがない。」(1:30~33)
 これは神様がマリアを選ばれて、マリアからイスラエルと全人類の救い主である王が生まれるという知らせです。救い主は神の国の王となられ、その支配は永遠に続く、と告げられました。
 従いまして、これはマリアから偉大な一人の王が生まれるという人間世界の事柄ではありません。そうではなく、神の国の支配者として永遠に王であり続ける方の誕生なのです。なぜならば、永遠に王として働き続けると言うことは、一人の人間の王ではありえないからです。どれほど健康でも百歳を越えて、頭も体も若い時と何ら変わらないと言う人はいません。まして永遠に働く方は、神以外にはありえません。
 それゆえ、父ダビデの王座を受け継ぐということは、単なる比喩です。それに対してマリアから生まれられる方は、人であり、同時に神なのです。その方を預言者たちは終わりの時に神のもとから到来する「メシア」として語っていました。
 イザヤ書9章5~6節で次のように預言されています。
 「ひとりのみどり子がわたしたちのために生まれた。一人の男の子がわたしたちに与えられた。権威が彼の肩にある。その名は、『驚くべき指導者、力ある神、永遠の父、平和の君』と唱えられる。ダビデの王座とその王国に権威は増し、平和は絶えることがない。王国は正義と恵みの業によって、今もそしてとこしえに、立てられ支えられる。万軍の主の熱意がこれを成し遂げる。」
 このように預言者イザヤは、アブラハム以来、イスラエルに約束されていた救い主の到来を預言しましたが、その内容はダビデ王の後継者では決してありません。あるいはダビデの王国を理想化したような国の到来を預言したのでもありません。そうような枠をはるかに超えた全人類を永久に支配される唯一の王として語っているのです。実に、一人の男の子であり、驚くべき指導者、平和の君であると同時に、力ある神、永遠の父なのです。
 マリアは、この神のご計画があまりにも尊く、神の恵みがあまりにも広大であることを知って、恐れました。また、神の恵みを受け、神のご計画に参加するには、自分があまりにも貧しく、弱い人間であることを知って、恐れたのです。
 そして本来、人間にはそのようなことが起こりえない、不可能であると思ったのです。そのような神の恵みは、自分には信じられない、と考えたのです。マリアはこれまで、神を信じ神に従うことを一番大切にして、信仰深い敬虔な人生を歩んできました。しかし、神の御子の受胎だけは、信じることが不可能でした。これは非常に逆説的に聞こえるかもしれませんが、信仰的な人は、神の御子の受胎が自分の身に起こるということは信じられないのです。もしも自分は信じるという人がいるとすれば、その人は不信仰な人です。
 従って、マリアは天使ガブリエルに言いました。
 「どうして、そんなことがありえましょうか。わたしは男の人を知りませんのに。」(1:34)
 恐れ、疑うマリアに対して、天使は答えました。
 「聖霊はあなたに降り、いと高き方の力があなたを包む。だから、生まれる子は聖なる者、神の子と呼ばれる。あなたの親類のエリザベトも、年をとっているが、男の子を身ごもっている。不妊の女と言われていたのに、もう六か月になっている。神にできないことは何一つない。」
 ここでは、神ご自身が天使を通してマリアに語られたのです。「神にはできないことは何一つない。」「人間にはできないが神にはできる。」「神は自ら意図されることを、実現することができる。」
 このように、神ご自身がマリアに語られましたので、マリアは御言葉を信じることができました。そして、その信仰を言い表しました。
 「わたしは主のはしためです。お言葉どおり、この身に成りますように。」(1:38)
 自分は何をなすべきかが分からないままで、自分の困惑を静め、躊躇することを止め、不信仰を御言葉によって乗り越え、「神の御言葉は必ず実現する」ことをマリアは信じました。そして、自分のすべてを神に献げたのです。
 まことに、神の御子がマリアから誕生されるという人智を遥かに超えた驚くべき恵みは、マリアの信仰的応答により、人格的な献身により、人類の歴史の真ん中で実現したのです。



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